2017年3月9日木曜日

新進作家のパワーを感じて! 『FACE展2017 損保ジャパン日本興亜美術賞展』

 今の時代の感覚を捉えた、作家たちのパワーみなぎる作品が東京・新宿に集っています。
 新進作家の動向を反映する公募コンクール『FACE展 2017 損保ジャパン日本興亜美術賞展』が、東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館で3月30日まで開催中です。

グランプリ 青木 恵美子 《INFINITY Red》
2016年アクリル・キャンバス
今回で5回目を迎えるFACE展。「年齢・所属を問わず、真に力のある作品」の募集に全国から902名の作家が応募。作家名、タイトル等の情報を見ずに審査し、「国際的に通用する可能性を秘めた」入選作品71点(うち9点が受賞)が決定しました。

表彰式にて 筆者撮影

 グランプリには青木恵美子さんの《INFINITY Red》、優秀賞には大石奈穂さんの《うその融点》、石橋暢之さんの《ジオラマの様な風景》、杉田悠介さんの《山》が選ばれました。この4名は、3年毎に開催予定のグループ展に出品することができます。注目の作家さんのその後を追うことができるわけです。
 審査員長は多摩美術大学教授の本江邦夫氏。審査員は東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館館長の中島隆太氏をはじめ、東京オペラシティアートギャラリーのチーフキュレーターの堀元彰氏、上野の森美術館学芸員の坂元暁美氏、三菱一号館美術館学芸グループ長の野口玲一氏がつとめました。

優秀賞 大石 奈穂《うその融点》
2016年 油彩・綿布・パネル

 選出された作品は、油彩、水彩、岩絵具、アクリルからボールペン、ミクストメディアなどなど使われた技法が様々で、抽象具象問わず多種多様な絵画表現を見ることができます。
表彰式での審査員長のお話では、今年は良作が多く、入選作品と受賞作品の差はあまりなかったとのこと。受賞作を決める段階で審査員の票が割れたそうです。しかしグランプリを受賞した青木恵美子さんの《INFINITY Red》は、やはりインパクトが強く、目を引く存在でした。写真だとわかりづらいのですが、実物を近くで見ると花弁のような形に絵の具が隆起していて、動き出して延々と増殖していきそうな……。審査員長が「新しいことをしようという意欲を感じた」という青木さんの作品。青木さん自身も「今回の作品は自分への挑戦でした」と語っていました。

優秀賞 石橋 暢之《ジオラマの様な風景》
2016年 ボールペン画

 私たちと同じ時代を生きる作家だからこそ共感できる「何か」を作品から感じ取り、絵の世界に没入する感覚を味わうことができるのも、この展覧会の魅力の一つだと思います。
 審査員の票が割れたように、惹かれる作品は人それぞれ。会期中には観覧者が投票できる「オーディエンス賞」の選出も行われています。お気に入りの作品を見つけて、ぜひ一票を投じてみてください。

優秀賞 杉田 悠介《山》
2016年 アクリル・パネル


☆pickup☆
 今回のFACE展に初入選された中村真弓さん。国立劇場や国立能楽堂で上演される歌舞伎や能の演目の題字、CDジェケット等に使われる書のデザインのお仕事をしながら独学で絵を学ばれたそう。襖に水墨と鉛筆で描いた作品《気づき》。後ろ姿の猫、引き手の上部にちょこんと佇む鳥。どうぞじっくり見て、人それぞれの中に生まれてくる「気づき」を楽しんでください。
入選《気づき》2016年 水墨・鉛筆・襖
作者の中村真弓さん 筆者撮影


 ちなみに、展示室最後のコーナーで、ゴッホ、ゴーギャン、セザンヌの3点、そして東郷青児の作品が常設展示されていますので、こちらもお見逃しなく(特にゴッホの『ひまわり』。覚えていらっしゃる方も多いと思いますが、87年に当時のレートで約58億円で購入したことで話題になったあの絵です)。


『FACE展 2017 損保ジャパン日本興亜美術賞展』
会期:2017年2月25日(土)~3月30日(木)
休館日:月曜日 (ただし20日は開館、翌21日も開館)
会場:東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館
〒160-8338新宿区西新宿1-26-1損保ジャパン日本興亜本社ビル42階
開館時間:午前10時-午後6時(入館は午後5時30分まで)
観覧料:一般:600円(500円)
    大学生:400円(300円)  ※学生証をご提示ください
    高校生以下:無料      ※生徒手帳をご提示ください
※()内は20名以上の団体料金
※身体障害者手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳をご提示のご本人とその付添いの方1名は無料。被爆者健康手帳をご提示の方はご本人のみ無料。
※本展覧会は展示室内での作品撮影が可能です。
(収蔵品コーナーは撮影不可です。)
<ご注意>
・他のお客様を撮影することはご遠慮ください。
・フラッシュ・三脚の使用はご遠慮ください。
・撮影された作品写真は、非営利目的でのみお使いいただけます。
主催 : 東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館、読売新聞社
協賛 : 損保ジャパン日本興亜
アクセス :
〒160-8338 東京都新宿区西新宿1-26-1 損保ジャパン日本興亜本社ビル42階
TEL 03-5777-8600(ハローダイヤル:美術館利用案内)
《地図》
http://www.sjnk-museum.org/access/access-map
※車から
新宿ICより3分
※電車から
JR新宿駅西口、丸ノ内線新宿駅・西新宿駅、大江戸線新宿西口駅より徒歩5分
《地上からのアクセスマップ》
http://www.sjnk-museum.org/access/access-ground2
《地下からのアクセスマップ》
http://www.sjnk-museum.org/access/access-basement
※当記事の画像写真の無断転載を禁じます

2017年3月3日金曜日

アーティストインタビュー 第一回 佐藤文音さん


こちらのコーナーでは、表現者として現在活動中のアーティストを、ジャンル問わずご紹介していきます。主にこれからが楽しみな若手作家が中心。ぜひ今のうちにチェックしてください!

第一回 版画家 佐藤文音(さとう あやね)さん

記念すべき第一回目は、版画の一種であるリトグラフを用いて作品を製作している佐藤文音(さとうあやね)さんにお話をお聞きました!
現在webのお仕事をしながら創作活動を続けている佐藤さん。彼女のイマジネーションの源とは?


profile
佐藤 文音(さとう あやね)
北海道小樽市出身
東京都在住
武蔵野美術大学 版画科卒業
現在版画工房ラール・ヴェリテリトグラフ研究所所属


record
2010年  9人のリトグラフ展(秋葉原 COEXIST & Ouchi GalleryNY)
     ラール・ヴェリテ リトグラフ展(六本木 AXISギャラリー)
2011年  第1回マカオ国際版画トリエンナーレ 選抜(Macao)
      版プリ展2011(渋谷 アートギャラリー道玄坂)
     三人展Anagram(東中野 スペース)
     佐藤文音 exhibition -Be quiet.(銀座ヴァニラマニア)
2012年 日本版画協会第80回版画展 入選(東京都美術館)
     魔術子の部屋(銀座ヴァニラマニア)
2013年  版画4人展 (国立 アートスペース&ティー「わとわ」)
2014年  高知版画トリエンナーレ 入選
     ラール・ヴェリテ リトグラフ展(コート・ギャラリー国立)2015 
2015年  佐藤文音・戸田雅也 リトグラフ2人展(銀座 Oギャラリー)
     日本版画協会第83回版画展 入選(東京都美術館)
《ここにいるよ》
2016年リトグラフ

ーーー絵を描くことは昔から好きだったんですか?
 小学2年生から絵画教室に通っていました。ピアノや水泳やスキーの教室にも通わせてもらいましたが、結局最後は絵画だけが残って。学校の美術の先生になりたかったんです。高校では美術部で油彩をやっていて、大学でも油彩を続けるつもりでしたが、受かったのが版画だったんです。それまで版画は苦手な方で。


《Play-祈り-》
2014年 鉛筆

ーーー版画を続けようと思ったきっかけはあったのですか?

 やってみたら、版画の黒が本当に綺麗だったんです。今まで見たことのない「黒」がそこにあって。色に惹かれた感じですね。版画を夢中になって勉強していたら、油絵のことを考えることもなくなって。でも描くことから離れたくない気持ちもあったので、版画でも描いたものがそのまま出てくれるリトグラフが私にはあっていたようです。
 大学の先生の紹介で、石橋泰敏先生の版画工房ラール・ヴェリテリトグラフ研究所でお世話になるようになりました。版画にきちんと向き合うようになれたのは、研究所に入ってからですね。


ーーーすみません、リトグラフってどんなのでしたっけ?
 石灰石や金属板に、科学的な処理をして油性インクを引きつける部分とインクを弾く部分を作って、水と油の反発作用を利用して専用のプレス機で刷っていきます。
(板面に油分の多い画材で絵を描き薬品をつけ、ローラーで油性インクを載せると描いた部分にだけ色がつく。この板面に紙を乗せてプレスするとインクが転写される)
 作品が仕上がるまで、学生の頃は版が完成してから数日かかっていたのですが、版画工房の先生の特別な手法とご指導によって1版を1日で刷れるようになりました。

  《イマジナリー・フレンド1》
 2015年アクリルガッシュ




《イマジナリー・フレンド5》
  2015年アクリルガッシュ



ーーーー佐藤さんの作品は、可愛いだけじゃない独特の世界観を持っていますが、影響された作品や好きな作家さんはいますか?
 コマ撮りアニメが好きで、特に双子のアニメーター、ブラザーズ・クエイの『ストリート・オブ・クロコダイル(Street of Crocodiles・1986年公開の英国映画・人形が主人公のストップモーションアニメーション)』が本当に大好きなんです。大学入学のために東京に出てきてから知ったんですけど。渋谷とか、東京の映画館では色々見ることができて衝撃でした。北海道の無人駅文化で育ったもので(笑)
 画家の七戸優さんや、絵本作家の出久根育さんも好きです。

ーーー佐藤さんが作品を作るときにテーマとしているものや、大事にしていることはありますか?
「うたかた」「眠っている間の夢」がテーマで、非現実的なものをリアルに表現する作品を作っています。
 版画は同じものをつくるのが大事だと、工房に所属してから学びました。とても当たり前のことなのですが、販売するのですから、展示している作品と同じものを複製することを心がけています。私は一度すり終わった原版は廃棄しています。

《サーカス》
2014年リトグラフ
ーーー今後やってみたいことなどはありますか?
 絵本を作ったり、イラストレーションや挿画をやりたいと思っています。ある絵本業界の方にお話を伺ったら「絵本は子供のためのもの」とおっしゃっていて。私の絵はどちらかというと大人向けなので(笑)。大人向けの絵本にチャレンジしてみたい気持ちもあります。



☆☆☆インタビューを終えて☆☆☆
 実はインタビューした日が初対面だったのですが、佐藤さんは明るくて笑顔が素敵で、とても楽しい時間を過ごさせていただきました。
 自分が表現したいことと世間から求められるもののギャップ、アーティストとしてどのように自分をプロデュースしていけば良いか等、悩みながらも描くことと真摯に向き合う姿に感動してしまいました。
 2017年10月には個展の開催を予定されているそうです。
 近況ではイラストのお仕事も増えてきている様子。今後も彼女の動向を見守っていきたいと思います。
 佐藤さん、貴重なお時間ありがとうございました!
(今回のインタビューには、アートエバンジェリストの柿沼幸恵さんにもご協力いただきました)

☆☆☆佐藤文音さんへのコンタクトはこちらから☆☆☆
HP
http://www.ayane-amedama.com/

ツイッターアカウント
https://twitter.com/ayane_amedama

人気の記事