2017年4月18日火曜日

戦国憂き世の異端児ここにあり! 特別展「雪村−奇想の誕生−」レポート


雪村筆 《呂洞賓図》 重要文化財
1 幅 119.2×59.6cm 奈良・大和文華館蔵 

【展示期間:3月28日~4月23日】 

昨年、大きな話題になった伊藤若冲展。若冲の超絶技巧で描かれた濃密な世界観に、これまで日本美術に抱いていたイメージを覆された方も多かったのではないでしょうか。
若冲はその画風から「奇想」の画家として語られますが、その若冲より 200 年も前に、時代を先取りしすぎた独創的な絵を物すお坊さんがいました。彼こそが、雪村周継(せっそんしゅうけい)です。
アメリカでは雪舟よりも人気が高いという雪村の大規模な展覧会が、上野の東京藝術大学大学美術館で開かれています。 


琳派の祖・尾形光琳も惚れ込んだ奇想の源流 


雪村は、大河ドラマでおなじみ井伊直虎とほぼ同時代を生きた画僧です。正確な生没年ははっきりしていませんが、1490 年前後に源氏の血を引く武家・佐竹氏の一族として常陸大宮の部垂に生まれたとされています。若くして出家し、佐竹氏の菩提寺である正宗寺で絵の修行を始めました。その後、80 代半ばで亡くなるまで、会津や小田原、鎌倉を往き来しながらたくさんの水墨画を残しまし た。 

雪村筆 《自画像》 重要文化財
1 幅 65.2×22.2cm 奈良・大和文華館蔵 

【展示期間:5月9日~5月21日】 

中国で水墨画を学び、日本独自の画風を確立した画聖・雪舟に私淑していたという雪村。しかし、雪村の絵は雪舟の模倣には決して終わりません。雪村は伝統的な絵画技法を学び、自分の中で発酵させ独特の個性を放つ作品を生み出しました。特に人物画、山水画にその特徴が表れています。一方、動植物画は写実的で繊細な表現で描かれています。しかし中にはユーモラスで可愛らしい動物画も。 

雪村筆 《風濤図》 重要文化財
1 幅 22.1×31.4cm 京都・野村美術館蔵 

【展示期間:4月25日~5月21日】 

小さい画面の中に自然の持つ荒々しさを大胆に表現した《風濤図》は、江戸時代の大スター葛飾北斎の風景画に通じるものを感じます。常陸で修行していた頃の作品です。 


雪村筆 《琴高仙人・群仙図》 重要文化財

3 幅(中央)121.5×54.0cm (左右)121.0×56.0cm 京都国立博物館蔵 

【展示期間:4 月 25 日~5 月 21 日】 

中国の仙人の伝記集『列仙伝』に書かれた琴高仙人の逸話を描いた《琴高仙 人・群仙図》。龍の子である鯉に跨って現れた琴高仙人と、それを待ち受けていた弟子たちが描かれています。 

雪村筆 《列子御風図》
1 幅 127.5×56.0cm 公益財団法人アルカンシエール美術財団蔵

【展示期間:3月28日~4月23日】 

道術を究めて風に乗って帰ってきたという列子の姿を描いた《列子御風図》。 写真では分かりづらいのですが、画面右上から左下へ淡墨で風が描かれ、ふわりと浮き上がる様子が表現されています。 

雪村筆 《蝦蟇鉄拐図》2 幅 各 151.5×205.9cm 
東京国立博物館蔵 Image:TNM Image Archives 
【展示期間:3月28日~4月23日】 

見ていて楽しい《蝦蟇鉄拐図》。自分の魂を飛ばす李鉄拐と、蝦蟇を操る蝦蟇仙人。口から白いものを吐いている三本足の珍獣はガマガエルなんですね。元は衝立だったというこの作品。お部屋にこんな衝立、いかがでしょう。 


 
雪村筆 《欠伸布袋・紅白梅図》
3 幅 各 120.5×64.3cm 茨城県立歴史館蔵 
【展示期間:3月28日~5月21日】 


戦国時代に描かれたとは思えない、気の抜けた表情の布袋様。画題の緊張感のなさとは裏腹に、筆使いは丁寧で細部まで丹念に描きこまれています。この《欠伸 布袋・紅白梅図》に影響を受けて、尾形光琳は光琳画業の集大成となる《紅白梅 図屏風》を描いたのではないかという指摘もされています。 



雪村筆 《龍虎図屏風》
6 曲 1 双 各 155.6×350.4cm 東京・根津美術館蔵
 【展示期間:4月25日~5月7日】 


天に駆け上がって雨を降らせる龍、風を吹かせる虎。自然現象の化身を雪村の世界観でのびのびと表現しています。 


雪村筆 《猿猴図》
 1 幅 120.7×47.2cm 個人蔵 
【展示期間:3月28日~4月23日】 

後ろの猿たちが野次馬する中、蟹を捕まえようとする一匹の猿。雪村は猿をモチーフにした作品を数点描いていますが、この《猿猴図》同様、人間味のある猿たちが物語性を感じさせる豊かな表情で描かれています。


おおらかで、どこかユーモアのある雪村の世界観は、後世の画家たちをも魅了しました。その代表格が、琳派の始祖である尾形光琳です。江戸時代中期に活躍した光琳は雪村を敬愛し、熱心に雪村の水墨画を模写し、「雪村」と彫られた画印まで持っていました。 


尾形光琳筆 《山水・寿老人図団扇》の片面
静岡・MOA 美術館蔵【展示期間:3 月 28 日~4 月 23 日】

 筆者撮影 

光琳が描いた、「雪村っぽい」なんとも愉快な表情の寿老人。この団扇、欲しい です。 


狩野芳崖筆 《竹虎図》
1 幅 19.5×32.6cm 奈良県立美術館蔵 

【展示期間:3月28日~4月23日】 

骨董屋で雪村の《竹虎図》を見て感動した狩野芳崖が、その素晴らしさを親友の橋本雅邦に伝えるために雅邦宅で記憶を頼りにスケッチしたという逸話が残る本作。雪村が描いたとされるオリジナルの《竹虎図》も本展で見ることができますので、見比べてみてください(4月 23 日まで)。 


橋本雅邦筆 《昇龍図》
1 幅 112.7×41.5cm 埼玉・山崎美術館蔵

 【展示期間:3月28日~4月23日】 

橋本雅邦の《昇竜図》は、近代の日本画家が受けた雪村の影響を作品の中に見ることができる好例。水面から飛び出て空へ駆け上がろうとする龍がダイナミックに描かれています


注目は新発見の《呂洞賓図》。実物の迫力を体感して 

本展のメインイメージとなっている《呂洞賓図》は、雪村の代名詞とも呼べる作品です。呂洞賓は中国の八仙人(日本でいう七福神に近い存在)の一人。呂洞賓は手に瓢箪を持ち、背に剣を帯びているというお約束を守らないのが雪村流。これまで雪村が描いた《呂洞賓図》は 2 点が確認されていましたが、今回の展覧会開催に向けての調査によって第3の《呂洞賓図》が発見されました。本作は狩野派の絵師たちが模写して学んだという逸品。本展が初お目見えとなる第3の《呂洞賓図》は必見です(既出の2点の《呂洞賓図》は本展では会期中に前期と後期で展示替えをします)。


雪村の作品には、実物だからこそ味わえる迫力があります。大きな屏風の前に立つと、雪村の描いた独特な世界観に呑まれそうになります。顔を近づけて小さな 掛け軸に観入れば、とぼけたような顔の人物や動物たちに思わず頬が緩んでしまいます。 
展覧会場内 筆者撮影
水墨画の中心地であった京の都には一度も赴くことなく、東国で独り、時代の先を行っていた雪村。 個性的な日本の画家たちに注目が集まる今だからこそ、雪村を見ておいて損は ありません!ぜひ実物に会いに上野へ足を運んでみてください。
今後は若冲や国芳といった奇想のスーパースターの名前の中に、「せっそん」をお忘れなきよう。 


特別展「雪村–奇想の誕生−」開催概要 


東京会場
会期:
2017.3.28(火)〜5.21(日)  ※会期中展示替えあり

会場:東京藝術大学大学美術館[上野公園]
110-8714 東京都台東区上野公園 12-8
開館時間:午前 10 時〜午後 5 時  ※入館は閉館の 30 分前まで

休館日:毎週月曜日  ※ただし 5 1 日は開館

観覧料
一般:
1,600 円(1,400 円)
大学生:
1,200 円(1,000 円)
高校生:
900 円(700 円)
※中学生以下無料
※()内は団体料金
※団体は
20 名以上
※団体観覧者
20 名につき 1 名の引率者は無料 ※障がい者手帳をお持ちの方とその介助者 1 名は無料

お問合せ:03-5777-8600(ハローダイヤル) 
公式ホームページ:http://sesson2017.jp
交通|東京会場
東京会場地図

JR 上野駅(公園口)、東京メトロ千代田線根津駅(1 番出口)より徒歩 10 分 
・京成上野駅(正面口)、東京メトロ日比谷線・銀座線上野駅(7 番出口)より徒歩 15
JR 上野駅公園口から台東区循環バス「東西めぐりん」(東京芸術大学経由)で 4 分、

停留所「東京芸術大学」下車(30 分間隔)

巡回展
滋賀会場
MIHO MUSEUM〔滋賀・甲賀市〕 2017.8.1(火) 〜 9.3(日)


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